JUGEMテーマ:相続

相続の問題で、親から生活費をもらっていたら、特別受益があるとして、遺産をもらえる額が少なくなるのでしょうか。

前回までは、民法と税法の比較のところまで、説明しました。

今回は、どういった生活費が、特別受益にあたるのかについてです。

もう少し、掘り下げてみてみましょう。



まず、生活費が特別受益にあたるといえるためには、民法903条1項にある「生計の資本として贈与を受けた」といえることが必要です。

では、どういった場合に「生計の資本として贈与を受けた」といえるのでしょうか。



「生計」とか「資本」とかわかりにくいですね。

こういうときは、辞書を調べてみましょう。



大辞林第3版
【生計】生活をしていくための方法・手段。くらし。生活。 「文筆で−を立てる」
【資本】
〇業のもとでとなる金。また,比喩的に仕事や生活を維持してゆく収入のもととなるものをもいう。 「商売の−を集める」 「サラリーマンは体が−だ」
〘法〙 株式会社の営業のため株主が出資した基金の全部または重要部分を示す一定の金額。資本の金額は登記または貸借対照表により公示される。
〘経〙 〔capital〕 土地・労働と並ぶ生産要素の一。過去の生産活動が生み出した生産手段のストックで,工場・機械などの固定資本や原材料・仕掛品・出荷前の製品などの流動資本からなる。マルクス経済学では,剰余価値を生むことで自己増殖する価値運動体として定義される。



うわっ。なんだか余計わかりにくくなってしまいましたね。



ただ、「生計の資本」というからには、単なるお小遣いといったニュアンスではなく、生活を維持していく基礎となる財産、というような重いニュアンスであるというイメージはつきますよね。



学者さんは、どのようにおっしゃっているのでしょう。


基本法コンメンタール 日本評論社 第4版 相続 69頁
「生計の資本としての贈与とは、子が独立する際に居住用の宅地を贈与するとか、農家の場合には農地を贈与するとかがその典型的なものであるが、これらに限られず、広く生計の基礎として役立つような財産上の給付をいうと解されている」




居住用の宅地や、農家の場合に農地を贈与する、これは分かりやすいですね。確かに「生計の資本」というイメージにあいます。
でも、これに限られなくて、「広く生計の基礎として役立つような財産上の給付をいう」としているんですね。



でも、ますます、わからなくなったって言われそうですね。


「広く生計の基礎として役立つ」って、どこまでをいうんですか?



ただ、最初考えていた、食事代を出してもらったとか、お小遣いをもらったという程度では、さすがに「生計の基礎」とまではいえないので、含まれないのでしょうね。



じゃあ、ずばり、幾らなら、特別受益にあたるんですか!



そこ、そこですよね。知りたいのは。



どこのインターネット上の情報をみても、

「特別受益には、数万円といったお小遣い程度のものは含まれません。500万円といったものなら特別受益にあたるでしょう。」

と書いています。


そりゃ、数万円が含まれないのはわかる。500万円が、どーんと渡されれば、特別受益にあたるといわれても仕方ない。

知りたいのは、その間!

200万円なら含むんですか?
100万円ならどうですか?
50万円は?
30万円は?
10万円なら?
5万円なら?

いったいどうなんですか!!

毎月5万円ずつ20年間で合計1200万円の贈与の場合はどうなんですか!



うわわわ。そんなに、厳しくおっしゃられなくても。ええ。はい。


イライラされるのは、わかります。

普通、問題となってもめるのは、数万円とか500万円とかいうのではなく、その間のお金ですから。

でも、それに対する明確な回答がされたインターネット上の情報は、多分、ないですよね。


「100万円までは、だめ。100万円以上は、特別受益にあたる!」


そうズバリ書いてあればわかりやすいのですが、書けないんですよね。

書いてあるインターネット情報があれば、それこそ、マユツバものですね。


今まで見ていただいたとおり、基準が、「広く生計の基礎として役立つ」なので、はっきりしないんですね。


はっきりしないから、主張できるものはみんな主張してしまおう。
正直、そういう空気感が弁護士のなかにあるのは、否定できません。


でも、この基準がはっきりしないのは、本当に問題だと思います。


これが、はっきりしていれば、本当はもめなくてもいいのに、もめてしまうことが減ると思うのです。

せめて、交通事故のように、赤本、青本といったある程度の基準が出来てくるといいんですけどね。


将来的には、こういうものが作れないかと、実は考えています。

まあ、でも、今は、そういうものはありません。

そのなかでも、元福岡家庭裁判所裁判官の坂梨喬氏の「特別受益・寄与分の理論と運用」(新日本法規)は、本当にわかりやすいです。

かなり、もやもやするところを、明快に書いていただいているのが、読んでて心地いいです。



その46ページに次の通り書いていらっしゃいます。

「ある家族が経済的に困窮している中で100万円の学費を工面した場合と、年収5000万円以上の収入のある世帯が100万円の学費を用立てた場合では、意味が異なるというのが私の考えである。意味というのは、その100万円を特別受益とするか否かという判断においてである。具体的にいえば、貧しい家族がその中の一人の子にその家族としては大変な額である100万円を学費として用立てた場合は、子が受けた利益は非常に高いものと評価されるということである。もちろん、そのような考えには異論が唱えられることは承知している。家族の年収が幾らであろうと100万円の学資の贈与は100万円の学資の贈与であり、その贈与された100万円によって将来の生計の基礎となる学歴を手に入れられたという点ではいずれも同等の受益ではないかと反論もできるであろう。100万円は100万円に過ぎず、その間に価値の差はない。それが、財産法的な価値基準で物事を考える場合である。しかし、家族間の人間関係の中で持つ公平感の意味としては、はるかに前者の方が多くの利益を受けていると感じられる。なぜならば、財産法的な思考においては同価値である100万円の贈与が、家族間でなされた場合、家族法的な公平感という概念が生じることにより、その100万円の贈与の意味を変質させるのである。意識的にか無意識的にか、実際にそのような考慮をしている裁判例はめずらしくない。」



ながながと引用してすみません。



要するに、高額な年収の人が100万円の学費を用立てた場合は、特別受益にあたらないが、経済的に困窮している人が100万円の学費を用立てた場合は特別受益にあたるとおっしゃっているのです。


実務上、常にこういわれているわけではないのでしょうが、家族法的な公平という観点からはわかりやすい議論だと思います。

とにかく、100万円未満なら特別受益にあたらない。100万円以上ならあたる、というように、金額だけでは決まらないということです。


特別受益は、個々の家族の贈与された当時の経済状態や、贈与の目的と必要性、他の相続人の当時の生活状況などを総合的に見て判断されているのです。


ただ、やっぱり、わかりにくいですね・・・



そうはいっても、もう少し明確にならないのかな?と思いますよね。



これについては、また、次回(幾ら以上なら特別受益?)に説明しますね。







〜お知らせ〜

さて、このたび、全国に先駆けて、愛知県弁護士会において、相続専門相談を実施することになりました。

詳しくは、
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是非、ご相談ください。

なお、文責は、
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最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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